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漢方薬のおはなし

やさしい漢方入門

 

ひたち漢方研究会会長 大曽根清朗先生(大曽根薬局 鮎川) により、気軽に入門できる漢方について、徒然なるままに書き下ろしていただきました。

 

『少しずつ専門的な内容に入って行きます。方向性としては、漢方の考え方を中心に述べていきます』(^.^)

 

※6番、7番は作者の意図を表すために口語調のまま掲載しました

 

1. 流体論 ・・・漢方の基本構造の説明です

体内を流れるものを漢方では流体論として認識します。

ひらたく言うと、目に見える液体と見えない気という概念にわかれます。液体は血と水であり、水は津液と称しています。

そのうち血と津液は陰陽の陰分に相当し、気は陽分に相当します。

流体論は体内を移動し巡っているので、五臓六腑特有の位置に流動するので、病が臓腑などに固定できない症状を見極める場合にこの流体論、あるいは気血水論を使い弁証します。

 

2. 血・・・漢方の代表的な概念と実践について

血は「けつ」と読みます。

 

血は、西洋医学の血液とは似て非なるものと思ってください。

血の概念は各器官に栄養をあたえることです。

 

血の生成は、水穀(食べ物や飲み物のこと)の精微(栄養分のこと)より生じ、気の種類である営気の働きで津液の一部と微量な精が結合して赤色に変化してできます。(営気とは「営」と呼ばれる人体に必要な基礎的栄養分によって構成される気を示します。「営」は栄養の「栄」と同義です)

 

また、漢方では陰陽論という概念があり、あらゆるものの最小分類が「陰」と「陽」の二つに分けています。

コンピューターの「0」と「1」、「ON」と「OFF」と同様です。

 

血は陰に分類されます。しかし、陰陽論では陽が不足すれば陰が変化して陽に化けます。またその逆もあり、陰が不足すれば陽が陰へと変化します。血が不足すれば陽である気が陰気に変化し血に変わります。

 

たとえば血が不足すれば症状が精神面に現れます。不安感、不眠、情緒不安定などです。

血の作用をまとめてみると、栄養作用、滋潤作用があり、神志(精神活動のこと)の物質的基礎になり、必要ならば血は精に転化します。

 

血は脈内を通っています。これが脈外に漏れると血の働きを失います。また、血に過度の熱が加わると脈外に漏れ出し出血となり、逆に血に冷えが入り込むと流れが停滞し、痛みや様々な症状を起こします。

 

血の停滞を血瘀「けつお」とか瘀血「おけつ」と称します。

瘀血には気滞、気虚、血虚、血熱、血寒など、それぞれの血瘀があります。

 

 

 

具体的には以下の様になります。

気が停滞すれば、血も停滞してしまいます。これを「気滞血瘀」と呼びます。通導散は、まさにこの病態に適応する方剤です。気滞でも、肝気鬱結の場合には、疏肝理気薬に活血化瘀薬を加えて対応します「血府逐瘀湯」。四逆散に桂枝茯苓丸を合方するなどです。

 

気が不足すれば、血を導く力が足りなくなり、やはり血瘀を発生することがあります。 これを「気虚血瘀」といいます。 補気薬に活血化瘀薬を加えて対処します「補陽環五湯」。補中益気湯に桂枝茯苓丸などを加えます。

 

川の流れを見てみると、水量が不足してくると、流れもゆっくりとしてきます。これと 同じことが血にも起こります。血の不足による血の停滞です。「血虚血瘀」と呼んでいます。

補血薬に活血化瘀薬を加えます「桃紅四物湯」。四物湯に桂枝茯苓丸などを合方します。

 

外感の病邪は体内に侵入すると、化熱することがあります。この熱が血中に侵入すると「血熱」を呈します。また、肝火・胃火・心火など、内傷によって生じた火熱も血中に侵入することがあります。同様に、血熱証を現わします。血が熱を帯びると、まるで味噌汁を煮つめすぎたかのように、血は次第に凝結し、やはり停滞を生じます。これが、「血熱 血瘀」です。

清熱薬に活血化瘀薬を加えます「犀角地黄湯」。桃核承気湯あるいは温清飲合桂枝茯苓丸などです。

 

風寒など、寒邪が体内に侵入し、血中にまで入ってくることがあります。多くは、基底に血虚証があります。寒邪には、凝滞させるという性質があります。そのため、血が停滞し、「血寒血瘀」証を現わします。「寒凝血瘀」証ともいいます。この場合には去寒薬、活血化瘀薬、補血薬の組み合わせで対応します。たとえば、温経湯、 あるいは当帰四逆加呉茱萸生姜湯合桂枝茯苓丸などです。

 

このように、血瘀証の原因はさまざまです。つまり、一次的な単純な血瘀証は少く、多くの血瘀証は他の病理から派生する二次的な病態なのです。

したがって、このような二次的な病理である血瘀証に対して、活血化瘀薬のみで対処しても対応できないです。

つまり、この場合、血瘀証は標(症状のこと)であって、本(本質のこと)ではありません。

 

漢方の治療原則は、「治病は必ず本に求む」です。そこで、瘀血を発生させた原因を追求し、それを治療することが肝要です。

 

 

※一部( )内に補足説明の加筆をさせていただきました

3. 胃下垂・・・中医学的なアプローチ

西洋医のほとんどが、胃下垂は体質的なもで治らないといいます。

 

ところが、漢方では胃下垂を中気下陥といい、胃内臓を支えている力が衰えたために、下垂してしまうと認識しています。 よって内臓をつり下げる気力を増強してやれば元に戻ります。

 

そのために作られた補気剤が補中益気湯です。

 

補中益気湯の効能は4つほどあります。

①胃腸の衰えである脾胃気虚

②胃下垂などの中気下陥

③頭痛耳鳴りなどの清陽不昇

④風邪と間違えるような気虚発熱

の4つです。

 

胃下垂ひとつに焦点を当てると、ひどくなると胃下垂だけでなく腎下垂や脱肛などを引き起こします。特殊な所では顔についている片方の目玉だけが下に落ちる症状などが出ます。すべては補中益気湯の適応です。 気虚の概念が理解できれば、胃下垂は治らない病ではありません。概念の無いものは見えないだけです。

 

4. 痛み

キリキリ痛む、重く痛む、チクチク痛む、裂かれるように痛む、等々痛みには様々な種類があります。

小さい子供などは言葉というボキャブラリーが少ないので痛いとしか表現できません。 また、子供でなくとも、どのような痛みがあるかを伝えるのはなかなか困難なものです。

我々医療人は、それをどのように引き出して訊ねるかが技術のみせどころです。

 

表現に限度、個人差があるので、そこを補助するために痛み方だけではなく、発生状況、 継続時間、部位の移動があるか、夜間に憎悪するか等々の方面から聞き出して原因を弁証します。

 

これは漢方だけではなく、臨床医学における弁病に役に立ちます。子供にとって母親は主治医です。母親は医学専門の知識がなくとも、顔色元気のなさなどを見ておかしいとすぐさま判断を下せるのです。

医師や漢方家が行う臨床判断は、母親の経験から来る子供の具合の悪さを数値的、弁証的 理論にしたものであります。急を要する判断は一番近くにいる母親が一番よくわかっています。

 

だから母親は主治医なのです。

 

5. 痛み方の例

後頭部から痛む場合は風邪であるこが多いです。また痛む部位が移動することがあります。一定の部位で針で刺されるようにチクチク痛み痛む部位が移動せず、夕方から夜にかけて痛みが悪化する場合は血瘀による痛みです。

 

また、側頭部からうなじ、身体の脇、足のズボンの縫い目に沿って痛む場合にはストレスによる場合が多いです。また頭をハンマーで叩かれたような我慢できない激しさが続く場合で、 首が振れないものは髄膜炎の恐れが大きいです、即座に救急車を呼ばなければなりません。

 

腹痛、腰痛、生理痛も痛み方の原則は同様です。ただ、胃腸系統の痛みを止めるには 鎮痙剤という薬剤を用いなければ効果が出ない場合があります。盲腸炎などで鎮痙薬を使用すると、医師の判断が遅れ腹膜炎を起こしてしまうことがありますので注意が必要です。

 

痛みが出た場合、基本的に温めめて楽になるか、冷やして楽になるかを見極め、発生部位の寒熱をしっかり見極めなければなりません。冷えがある寒症の場合は擦られると喜びます。炎症のある熱症の場合は手を触れただけで止めてくれと嫌がります。

 

炎症は冷やし、寒症は温める。バランスをとってあげることで痛みは緩和します。

 

 

6. 頭痛

頭痛と言っても、発生部位、時期、痛み方、増悪因子等々あらゆる条件によって、至急救急車を呼ばなければならない髄膜炎から感冒による頭痛まで様々なものがある。

 

鎮痛剤の種類によっても、子供に飲ませてはいけないものから、偏頭痛専用の鎮痛剤まで多種にわたる。神経を遮断する薬剤は、頭痛が消えても副作用により胃腸障害など気持ちの悪い症状が出たりしてすっきり治らない。

 

漢方専門家が見立てると、ありきたりの漢方方剤であっても、霧が晴れるごとく身体が軽くすっきりと副作用なしに治り、その気持ちよさで漢方ファンになる方も少なくない。

 

ただ、頭痛の原因現象を見極める漢方専門家が少ないのが不幸である。一人でも副作用のない気持ちよい治療を経験させてやりたいものである。

 

(原文まま)

7. 血の道・・・江戸時代から用いられた日本独自の漢方用語です

 

血管系の病を治すには、古くから血の道を治す婦人薬として様々な浄血薬剤があった。

漢方では瘀血や血瘀をさばく方剤として駆瘀血薬として作られてきた。

 

日本では婦人が服用する薬として認識されてきたが、血瘀と言われる血の停滞は男女関係なく発生する。

 

現代では血流をサラサラに良くすることによって、腫瘍や悪性の病に進行するのを防いでくれる。婦人に多い子宮筋腫などは駆瘀血薬を数ヶ月服用することによって手術をしなく とも溶けて消失してくれる。不思議なものである

 

 

 

(原文まま)