HOMEお薬のおはなし>薬歴簿

薬歴簿について

Q薬剤師が管理する薬剤服用歴管理記録簿とはどのようなものですか。

 

Aはい。薬剤服用歴管理記録簿は通称薬歴簿といわれ、患者さんが医療機関にかかって、処方箋を持って来局された際に、その時調剤したお薬の記録だけでなく、患者さんの体質やアレルギー歴、その薬を服用するに至った経緯や過去に起こった副作用の履歴、今現在他の病院から処方され服用しているお薬、自宅に飲み忘れなどで余っているお薬の状況など、お薬に対する様々な情報を確認して記録しております。また医薬品以外に健康食品やサプリメントなどの情報、普段よく摂取する飲食物などの情報も記録しており、いわば薬のカルテのようなものです。

 

Qなるほど。薬局ではただお薬をもらうだけでなく、そのような「薬のカルテ」を作成して管理しているということですね。

 

Aそうです。薬剤師は処方箋により調剤する際には必ず、この薬歴簿を確認します。似た種類のお薬によってアレルギーや副作用を起こしたことはないか、また現在服用されているお薬同士で飲み合わせに問題がないか、重複している成分がないか、女性であれば妊娠や授乳をしていないか等を確認します。そこで疑問があれば必ず医師に確認をして薬の変更を提案します。例えばある種類の抗生剤で副作用を起こしたことのある患者さんが、同じような構造をもつ抗生剤を服用すると再度副作用を起こす可能性が懸念されます。薬歴簿にそのような記載があれば、薬剤師がそれを確認して、別の構造の薬剤に変更することを提案することが可能となります。また今病気で服用しているお薬の効果を確認し、適切に効果が得られていない場合なども処方変更を提案したりもします。例えば、痛み止めのお薬を服用していて、十分な効果が得られない時は漫然と服用するのではなく、別の作用のお薬を提案することもあります。また体質なども重要な情報になります。例えば患者さんによっては便秘しやすい体質の方もいらっしゃると思います。処方されたお薬の中に便秘しやすいお薬が入っていないかなどを確認することも重要です。患者さん一人一人にあった薬物治療を提案し提供していくのも薬剤師の重要な仕事のひとつです。


このように薬歴簿に書かれている内容を元に、患者さんの現在の状況を把握して、お薬が適切かどうかを判断しています。なので、薬歴簿を作成する際には患者さんやそのご家族の方から色々と今のお話しを聞いて情報を記録しておく必要があります。

 

Qなるほど。薬剤師さんは薬局でお薬を渡してくれるだけではなく、私たちの服用する薬に関して色々と考えているのですね。実際にお薬をもらう際にどのようなことを事前に薬剤師に言っておいた方がいいですか。

 

Aそうですね。最近では薬局に処方箋を持って行って、お薬をもらう際に薬剤師から病気のことについて聞かれることが多いと思います。薬剤師は薬を通じて、その適正使用や安全性を確保するため患者さんと色々な情報を共有して調剤しています。ですので最低限、現在かかっている病気や他の病院で処方されたお薬、薬によるアレルギーや副作用の経験などです。特に今飲んでいるお薬がある場合には、飲み合わせも考えなければならないので、その点はお伝えして頂ければと思います。

 

Q確かに薬剤師さんに相談しておいた方が良いですね。

 

Aはい。その他にもお子さんに使用する薬であれば、年齢や体重なども大切な情報になります。お薬に含まれている量がその子に適切な量でなければ効きすぎてしまったり、副作用が強く現れてしまうことがあるため、注意が必要になります。

 

Qお薬の飲み合わせや副作用については確かに心配ですね。

 

Aそうですね。その対策の一つとして、薬歴以外に既に皆さんご存じの方も多いと思いますが、国が普及を進めておりますお薬手帳の活用、これが大変有効になります。特に2つ以上の医療機関を受診していてお薬が出されている場合には、とっさにその薬の名前がでてこないということもあるかと思います。実際に血圧の薬だけでも何百種類も存在しますので、単に「血圧の薬を飲んでいます」と言われても分からないわけです。
しかも最近ではジェネリック医薬品が急激に増えてきており、名前も大変憶えづらいので、正確に伝えることがなかなか難しいと思います。
そんな時にお薬手帳に記載されているお薬を確認すれば、適正使用や安全性の確保に役に立つというわけです。飲み合わせでいえば、例えば眼科と呼吸器内科を両方受診していた場合、緑内障の目薬の中には気管支喘息の患者さんに使えない目薬もいくつか存在します。そういった情報を我々医療関係者がいつでも確認できるようにするためにもお薬手帳を常に持参して頂くことが重要ですし、毎回同じお薬をもらっている場合でも常に最新の情報をお薬手帳に記載しておくことが重要です。

 

Q東日本大震災でもお薬手帳の重要性は証明されていましたね。


常日頃から備えをしておく上でもお薬手帳は医療機関を受診する際には常に持ち歩いて、自分が飲んでいるお薬についてしっかり管理しておくことが必要ですね。

 

Aそうですね。お薬を管理していく上でもう一つ重要なのが、残薬の確認です。残薬というのは飲み忘れなどで薬が自宅に余っている状態をいいます。

 

現在、患者さんの飲み忘れなどで無駄になっている薬剤費は年間400~500億円といわれています。

 

そのため厚生労働省も平成24年から薬歴を活用した残薬の確認ということを積極的に推し進めております。なぜお薬が余ってしまうというとその理由はいくつかあります。


併用薬が多くて整理がつかない場合や副作用が怖くて服用をしていない場合、体調が悪くないので自己判断で服用を止めてしまっているというケースもあります。さらには錠剤やカプセル、粉薬が飲めないといった薬の剤形に関するものまでその理由は様々です。残薬を減らすためにはこれらの理由を把握し、対応策を考えることが重要になります。
例えば「副作用が怖くて薬が飲めない」という患者さんの場合には、そのお薬の副作用について恐怖心を取り除きつつ対応策を話し合い、きっちり納得して服用できるようにしたりします。「体調が悪くないので自己判断でやめてしまう」という患者さんには基本的な病気についてきっちり説明させて頂き、そのお薬を服用する意味をしっかりと理解してもらうことが重要になります。自己判断で中止している場合では、自覚症状がない間に病気が進行して取り返しがつかなくなってしまうや医師もお薬が効いていないと勘違いして更にお薬が処方されてしまうといった場合もあるため、特に注意が必要です。錠剤や粉薬が飲めない場合には、飲み込むのを助けてくれるゼリーやオブラートなどで対応することができます。このように残薬が出てしまう理由を正確に把握しておけば、その対応を提案することができます。無駄な残薬を減らし、上がり続ける国民医療費を抑制することも薬剤師の重要な仕事の一つと言えます。

 

Qなるほど。薬歴を生かしてきっちり残薬を管理することが大事なんですね。それにしても自己判断でお薬を中止するというのは危ないことなんですね。気を付けないといけませんね。では実際に今手元に残薬がある場合にはどのように取り扱えば良いですか。

 

Aそうですね。基本的に古いお薬は使用期限が明確でないため処分していただくことになります。特に古いお薬は光や湿度で変化していて本来のお薬の効果が発揮できなくなることもありますし、今の患者さんの体調、病気の状態がお薬をもらった時と異なっていることも考えられます。そうした時に自宅に余っているお薬を勝手に服用してしまうのはとっても危険です。

 

さらには、大人には使えても子供には危険な成分であるというお薬があるので注意が必要です。

例えば解熱鎮痛薬のボルタレンなどはインフルエンザ脳炎・脳症患者に使用すると重症化することが知られております。これらの成分は小児のインフルエンザに伴う発熱に対しては投与が推奨されておりません。実際に過去にインフルエンザ脳症による死亡例で、これらの成分を服用していたケースがあったこと。さらに、受診前に、これらの成分を含む残薬を自己判断で服用させて、インフルエンザ脳症が悪化したという例もあります。


これらを踏まえて厚生労働省はこの残薬の服用について、注意喚起をしておりますし、我々薬剤師も積極的に残薬の確認を行うようになりました。
また特に最近では薬剤師が直接患者さんのお宅へ訪問して、薬剤管理指導を積極的に行っております。そこでも残薬の整理は薬剤師の重要な仕事として取り上げられています。もし今現在ご自宅に残薬があったり、その対応について困っていたり、疑問がある場合には遠慮なく我々薬剤師に相談して頂ければと思います。

 

Qそうですね。残薬を含めこれらお薬のことについていつでも相談できる薬剤師さんが近くにいるといいですね。

 

Aそうですね。そのため私たちは患者さんに「かかりつけ薬局」を持つことをお勧めしております。

 

Qかかりつけ薬局ですか。かかりつけ医という言葉はよく耳にしますが。

 

Aはい。「かかりつけ薬局」とは、お薬に関するあらゆる相談に応じ、情報提供してくれる薬局のことです。「かかりつけ医」が普段の健康管理や病気になった時の強い味方だとすれば、「かかりつけ薬局」は薬の面から患者さんの健康管理のサポートをするものです。


「かかりつけ薬局」を持つメリットとしては、お薬の重複、飲み合わせによる副作用を未然に防げるという点が挙げられます。いくつかの医療機関を受診している患者さんでも、お薬をもらう薬局を一つに決めておけば、自分が服用しているお薬をそれだけで管理しやすくなります。またもう一つのメリットとしてお薬について、処方薬だけでなく、大衆薬などについてもいつでも気軽に詳しい説明が受けられるということです。いつも顔見知りの薬剤師さんがいればそれだけ患者さんも安心して、病気のことについて相談できると思います。

 

Qなるほど。かかりつけ薬局を持つと患者さんにとって大きなメリットがあるのですね。

 

Aそうですね。基本的に処方箋を持っていけば全国どこの調剤薬局でもお薬をもらうことが可能です。その中で「かかりつけ薬局」を1軒決めておけば、お薬について交通整理ができます。また我々薬剤師としても、定期的に来局される患者さんの状態をチェックできるので、その時の処方薬の変更や体調の変化、お薬服用後の症状の変化などを継時的に確認でき薬歴に反映できるようになります。ですので、今飲んでいるお薬がしっかり効いているか、また副作用が出ていないかなどの確認に大変役立ちます。

 

ここまで色々と薬剤師の仕事について、説明してきました。このように薬局では、お薬を調剤するだけでなく、患者さん一人一人の体質、アレルギー歴、副作用歴などをチェックし、薬歴簿をつけています。その薬歴をもとに患者さんが処方されたお薬の相互作用や副作用に対する注意、お薬手帳の発行や残薬を減らすための工夫を考えています。

 

患者さんも安心して、かかりつけの薬局に来て頂き、お薬やその他健康についての相談に我々薬剤師を活用して頂ければと思います。

 

あかね薬局

 小橋川 祥

 

上へ戻る