院外処方せん応需薬局 平成28年9月勉強会

9月15日(木)に日立薬剤師会定例の勉強会がおこなわれました。

第一三共製薬株式会社様のご協力を得て、講師に千葉クリニックの院長、千葉一博先生をお招きすることができました。

今回は、テーマ「血栓症」として「心房細動に対する新しい治療について」をご講演いただきました。

とてもわかりやすく内容をまとめていただき、読みやすいレジュメもお作りいただいたうえ、日常の診療における感慨や信念を織り交ぜたお話もあり、最新の治療法の解説もしていただくという、なんというか、講演を聞いた者は得をした勉強会でした。

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お話はまず、心房細動の種類と典型的な所見について説明していただきました。

心房細動による心原性脳塞栓症の治療について、抗凝固剤による服薬治療にばかり意識が向くきらいがあり、なんとなく、抗凝固剤をのんでいれば自覚症状がそんなにない心房細動なら不整脈自体はそのままでも大丈夫なのかな、などと思っていました。なので、そもそもの心房細動の病態と治療について学ぶ良い機会になりました。

心房細動には発作性心房細動(7日以内に自然停止する心房細動)、持続性心房細動(7日以上自然停止しない心房細動)と永続性心房細動(除細動が不能または試みられなかった心房細動)があり、初発心房細動(初めて診断された心房細動)も含めて分類します。自然停止する心房細動であっても症状を繰り返すうちに永続性心房細動になりうるということでした。

心房細動の治療としては、初発や発作性心房細動で48時間以内ならば除細動をおこなうそうです。Ia群の抗不整脈薬を用いて実施しますが、除細動の成功率は約30%だそうです。少ないですが電気的除細動をおこなうこともあるそうです。

心房細動になって48時間経過していると、すでに左房内血栓ができている可能性が高いそうです。薬剤で脈拍のコントロールをおこないつつワルファリンカリウム療法を一定期間実施し、そのうえで除細動をおこなうそうです。抗凝固剤の服用は除細動の後も最低4週間は必要とのことです。

3ヶ月以上続く心房細動では、除細動しても洞調律に戻る可能性は低いので脈拍のコントロールと抗凝固療法を続けるとのことです。

 

ところで、抗凝固薬についてですが、直接Xa阻害剤とトロンビン直接阻害剤は今までNOACと呼ばれてきました。でも国際血栓止血学会がDOACと呼ぶことを推奨しているそうです。今回の勉強会でも千葉先生はDOACという呼称を使用されていました。今後はDOACと呼ばれることになるようです。

NOAC(Novel Oral Anti Coagulants)からDOAC(Direct Oral Anti Coagulants)です。レジュメから写しました(^^;;

 

さて、心房細動は心原性脳塞栓症の原因になりますが、非心原性脳塞栓症のアテローム血栓性脳梗塞とラクナ梗塞についても解説していただきました。並べて病態と原因について解説していただいたので、心原性脳梗塞の重症度が高いことを確認できました。やはり抗凝固療法は大切です。

 

そして、白色血栓と赤色血栓のお話が印象に残りました。

動脈に生じる血栓は、血小板が主体となっており、「血小板血栓」「白色血栓」と呼ばれるそうです。これに対し、静脈血栓は、フィブリンと赤血球を主体とする「フィブリン血栓」「赤色血栓」が生じます。動脈は血流が速いことに起因する血栓で、静脈は血流が遅いことに起因し、凝固系因子が働いて血栓の形成をします。なんのことか分かりにくいですが、千葉先生による、川岸の砂的血栓(白色血栓)と池の藻的血栓(赤色血栓)という表現が腑に落ちました。

白色血栓には抗血小板剤、赤色血栓には抗凝固剤を適用することがよく理解できます。

そして、心房細動があると心房内で赤色血栓がべったりと形成され、それが剥がれて脳の血管まで流れると、脳の太い血管で詰まるわけです。

赤色血栓のことからもわかる通り、千葉先生も繰り返しお話されていましたが、心原性脳塞栓症には抗血小板剤は全く無効で、有害事象しか来さないということになります。

そこで、やはり抗凝固療法は必要で大切です。有用性はあってもリスクが心配で処方に踏み切れないケースも、日立医師会が主導する心房細動連携パスなど、専門医との連携により解消する方向に進みそうです。

 

千葉先生の処方について、実臨床における苦悩なども織り交ぜたお話のなかで、やはりワーファリンの処方におけるPT-INRコントロールの煩雑さ、相互作用の懸念、出血リスクの不安から解放されるDOACは使いやすく、信頼できる薬剤になるようです。

薬剤選択の基準としては、やはり診療の際に実感している服用回数が少ない方がアドヒアランアスが向上するということ、1日1回服用がよい。服用が想定される高齢者は腎機能が落ちますから、腎排泄が少ない薬剤も条件になります。

千葉先生は自分で服用するならエドキサバンとおっしゃっていました。まあ、勉強会を開いていただいたメーカー様にご配慮をいただいたのもあるでしょうが、実際に信頼できる条件にあう薬剤だそうです。体重で減量できたり、60mg錠を半錠で処方すると値段を安くできるので、DOACの欠点である患者負担金が高くなる問題も解決できるようです。

 

結論では、やはりDOAC療法は心房細動による心原性脳塞栓症発症抑制のスタンダードな治療になること。患者のアドヒアランス向上のためにやはり薬剤師には大きな役割があることをご教示いただきました。改めて気を引き締めなければなりません。

 

最後に、最近日立総合病院でもはじまったカテーテルアブレーションについても解説していただきました。千葉先生の患者さんもこの治療により心房細動が完治した事例もあるそうです。また、発作性心房細動と永続性心房細動では手術の方法が違うそうです。

 

千葉先生、この度はわかりやすく多岐にわたる講演をいただきありがとうございました。個人的には、このブログを見てくださって感想をいただけたことがうれしかったです。

 

さらに個人的には、何年も前のことですが、私の愚息が定期接種で千葉クリニックにお世話になった際に、大暴れして何度もけっとばしてしまってすみませんでしたm(_ _)m 私の家内によると先生は蹴られながらも注射してくれたそうです;^_^A

 

エピペンについて

学校薬剤師の活動で、教職員向けにエピペンの使用法と保管方法についてお話する機会をいただきました。

2012年に東京都で起きた給食後のアレルギー事故など、悲劇を繰り返さないために必要な知識と思われます。また、担当小学校において、低学年児童があらたにエピペンが処方されたことがきっかけで、全教職員が知識を習得することになりました。

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ファイザー製薬のガイドラインと動画を利用させていただきましたので、内容は既存のものにそってお話しました。それでも個人的に疑問を持ったことを事前に製薬会社に問い合わせをして、得心したことがいくつかありました。

 

ひとつは、エピペンは自己注射薬ですが、針の太さが22Gで、長さが13mmから15mmあることです。自己注射としてなじみがあるインスリンなどに使用される針は34Gで4mmなどですから、比べるとエピペンはだいぶ太くて長いことになります。皮下注射と筋肉注射の違いがありますので当然なのですが、注射時に痛みを感じることがありそうです(⌒-⌒; )

 

それから、保管方法にて、保存温度が15〜30℃とされていて、冷所保管(冷蔵庫など)はさけることになっている理由についても問い合わせました。添付文書記載の貯法は室温・遮光保存ですから、エピペン付属の遮光ケースに入れておけば1〜30℃の安定性は問題ないはずです。ならば高温をさけるために凍結をさけて冷所保管するのは好ましいようにも思われます(携帯時には保冷剤などを用いることが推奨されています)。

保存温度についてメーカーの答えは、アドレナリン注射液製剤は1〜30℃で承認を受けているが、エピペン注射器はプラスチック、ゴムなどの合成樹脂を多用しているので急激な温度変化に耐えないということでした。冷えている状態の注射器自体が温度変化で変形し誤作動を起こす可能性があるとのことです。また当然、薬剤自体も急激な温度変化が起きた場合正常な量の摂取ができなくなる可能性もあるわけです。メーカーとしては15〜30℃で保管されていない場合は正常な動作は保証できないとのことです。

インスリン製剤などは冷蔵庫から出して室温に慣らしてから使用開始することなりますが、エピペンの場合、使用時は悠長に室温に慣らすような時間はないでしょうから、最初から使用できる温度で保管すると考えれば腑に落ちます。例えばですけれど、10℃の室温などの環境に保管してしまっても、10℃の環境にて接種するのなら問題はないということになります。

学校で保管するときは室内の暖房や直射日光の当たらないところ、携帯するときは日の当たるところに長時間おかないこと、屋外なら日陰にて一時保管するということでよいのではないでしょうか。児童が登下校でエピペンを携帯する際、保冷剤や保冷容器などは使わなくても大丈夫と考えてよいでしょう。

 

この機会に、アレルギー、アナフィラキシー、ショック症状についておさらいして、対処法やエピペンの使用法を勉強できたことは良い経験にもなりました(^ ^)

 

小学校に行くと先生方と会うことで勉強になりますが、おもしろい子どもたちにもめぐり逢うので楽しいです。今日の午後は数人の中学生が小学校の前庭の芝生を利用して逆立ちの練習をしていました。話を聞くと中学校のサッカー部だそうで、中学校のグラウンドが使えない日なので自主練習です。

逆立ちで歩くことは部活の練習メニューだそうですが、なるほど、山砂が固まったグラウンドの上では手のひらが痛くなるだろうな、と思いました。

 

この逆立ち練習をすると、バランス能力が向上したりするのかね?ときいてみたのですが

 

こんなの根性がつくだけですよ!!

 

どうもルーチンメニューをちゃっちゃとこなして、サッカーをする時間を多くするために自主練習しているようでした。

なんと聡明なんでしょう!

自分の行動を愛することは素晴らしいです、サッカーのために逆立ち歩きをを習得する中学生たちから学ぶことは多いと思います。

大人は不条理・不合理なことを避けすぎではないでしょうか。とかく仕事にからむこととなると自分の利にならないことを忌避していると思います、自戒の念をこめて、無駄と思えることでも何でもやっておこうと思います。エピペンの使用法の習得だって、薬剤師会の会計業務だって、やっておけばいつか誰かの、自分の役にたつと信じて(^^;;

 

 

 

ともあれ、逆立ち歩きはまちがいなく身になるよ、少年。