第12回 日立三師会合同研究会特別講演会

平成27年7月17日午後6時45分開会 ホテル天地閣にて第12回日立三師会合同研究会講演会が開催されました。

まず話題として「認知症について」を日立総合病院の副院長藤田恒夫先生からお話いただきました。

あらためて世界的に高齢化社会に向かうなかで、増え続ける認知症という病気と医療・介護は戦わなければならない、今後認知症や認知症合併症による死亡率があがる未来において為すべきことは何か、というお話でした。世界的に4秒に一人の速さで認知症患者が増えているそうです、現在日本でも軽度認知障害を含めると1000万人弱の認知症患者がいるそうです。

認知症の早期発見、早期治療をしましょうと言われていますが、現在は根本的な治療法がない状況で、早期発見は早期絶望につながってしまうのではないか、とのことです。脳機能の画像診断などが進歩して早期診断は正確になってきているので、根本的な治療のためにはより早く正確な診断とより早い介入が必要だそうです。

薬剤の使用はどれも対症療法にしか過ぎないというお話が印象に残りました。藤田先生がよく使われる薬は、ドネペジル、レミニール、リバスタッチ、メマリー、抑肝散、リスパダールなどで、認知症の中核症状・周辺症状にもある程度効果が期待できますが、いずれの薬も副作用が強く出たら中止すべきとのことです。リハビリ・介護を含めた包括ケアが大切で必要なことだそうです。

科学の話題も有りました! 医療・介護の近代技術はSF映画のような領域に差し掛かり、サイバーダイン社のロボットスーツを装着すれば運動機能障害をもつ患者さんも歩くことができる時代が来るそうです。このロボットスーツは生体電位信号で動くので、脊椎が切れている人では動かないそうです。でも、ブレインマシンインターフェイスというテクノロジーが発達してきて、これは頭にセットして念じると、その念がどういう作用に変わるのかは理解できませんでしたが(ー ー;) 指を動かせるところまで研究が進んでいるそうです。すごいですね(O_O) ところが、このような素晴らしデバイスがあったとしても認知症の患者さんの助けにはならないそうです´д` ; いわゆる人間の活動を司る高次機能が障害をうけていると、やるべきことを念じることができないわけです。神経科学のさらなる発展に期待したいということでした!

まとめとしては、近い将来に認知症や認知症合併症のための死亡率が上昇するにあたり、終末期医療のあり方を考えて、EOLC(End of Life Care)チームの育成をしていかなればならないとのことです。包括ケアのチームでは薬剤師も是非活躍したいと思います!

 

そして特別公演「認知症の食べることの問題」を菊谷武先生(日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニック院長)からお話いただきました。

菊谷先生のクリニック(クリニックといっても歯科医は20人いて、1日100人以上の患者さんを診て、月に一人で150人の在宅診療をおこなっているそうです!)では主に摂食と嚥下についての治療に重きをおいて行っているそうです。なにしろ在宅患者はほぼ認知症だそうです。

認知症と診断を受けたら、まず歯科に紹介すること!というお話がありました。認知症の方は歯磨きという複雑なプロセスを実行することが困難になること、認知症の進行とともに口を開けることができなくなることなどから、口腔内環境は悪化の道をたどり、結果歯の脱落なども起こして咀嚼嚥下の障害につながってしまいます。だから、認知症と診断されたら、まず歯科にかかり、突貫でもよいので口内の整備をしておく必要があるそうです。なるほど!

認知症患者の食に関する問題点は、口を開かなくなる、いつまでも噛んでいる、スプーンを噛む、食べようとしない、食べ物を口に溜め込む、ことがあるそうです。これは先行期障害にもとづく摂食行為の異常がみとめられること、緩徐に進行する運動機能の障害が影響すること、前頭葉障害による原始反射が再現することなどが原因というか特徴だそうです。(原始反射とは、赤ちゃんがおっぱいや指を反射的に吸ったり、顎を動かしてもぐもぐ食べることを自然に行うことだそうで、認知症により再現するそうです。)認知症患者の自発的な食事の訓練は難しく、環境改善的アプローチで対応することが主体だそうです。

また、記憶障害に伴う食事の問題点もあります。食べたことを忘れる、次の食事がいつかわからないこと。意味記憶障害により食具の使用法がわからなくなりスプーンや箸が使えない、または逆に、手続き記憶の保持によって箸を上手に使うことだけができる(車の運転にも同じ現象がみられることがあります(O_O))、箸を使えても咀嚼や嚥下ができずに誤嚥や窒息の事故につながることもあるそうです。

見当識障害があると、食べ物を食べ物とわからなかったり、ぬいぐるみを食べてしまうなどの異食がおこることがあるそうです。また実行機能障害という、目的を持った一連の行動ができない障害があると(食べ物を口に入れて噛んで、移動させて、すり潰して、集めてまとめて飲み込むことができない)、嚥下機能は年齢相応にある人でも、食事の順序だてができずに早食い(尋常じゃない早さ!)、またはつめ込みが起こり肺炎や窒息などの摂食事故につながるそうです。日本そば(そば、薬味、つゆ、わさび、海苔などが何を意味するのかわからず、もちろん作法などわかるすべもない、食べ物にさえ見えていないこともあるそうです)を例にお話をされました。

認知症患者の食事をどうすればよいか。口内の環境がよくないまま推移すれば、やはり固い食べ物を口に入れるのは危険だそうです。でも完全な介助をするまえにできることはあるそうです。認知症患者は食事の手順がわからず、食事がはじめられない状態になっています。食事の手順で行動提示を行うそうです。方法は同じ動作をして見せることだそうです、また最初の行動のうながしが大切で、スプーンをもつ手を介助する方が一緒にもって、手を持ったまま食事を口に運ぶ動作を続けることも効果があるそうです。

それから情報過多がいけないそうで、視野に入る情報・耳に入る情報を制限することは必要だそうです、テレビや猥雑な環境に注意です。情報を制限してシンプルにすること、それは食事を一度に出さずに順にお膳することで目の前の菜をシンプルに食べることなどが効果的だそうです。食器もシンプルなものがよく、陶食器などの柄や模様が食べもに見えるそうです、空のお茶碗をいつまでも持って、箸で絵柄を掻いている動画を観ました。白い茶碗に入った白いご飯よりも漆椀にはいった白いご飯の方が食べやすいそうです(写真でもコントラストがくっきりしてました)。

また、お茶碗やお皿がたくさんあるお膳よりもどんぶりものの方が食べやすい傾向は間違いなくあるそうです(写真では色々なおかずをご飯にのせていました、ロコモコ丼みたいなものもよいのかも)。そして、食具の使用が難しいのですから、手に持って食べられるものは嚥下の負担にならないものなら、食べられるものが多いそうです、サンドウィッチ、おにぎり、ちくわなど。

なにしろ食べもに「力」があることが大切だそうです。味はメリハリがありしっかりパンチがある方が好まれます。温度も暖かいか冷たいかはっきりしていた方がよいそうです。見た目もパンチ力が必要でハッキリ食器と区別がつくものがよいです。

そうするとカレーライスがベストオブ献立になるそうです!完食率が高いそうです!私も歳をとりすぎても食べたい食べ物のひとつなのでよかった( ^ω^ )

もうひとつ認知症の食の問題では、特にレビー小体型認知症で多いそうですが、幻視による摂食障害があるそうです。ご飯のごま塩が蟻に見えたり、蛇が食器の間をうねっていたりするそうです。

摂食・嚥下で一番の問題は不慮の事故です。不慮の窒息事故で亡くなる方は不慮の交通事故で亡くなる方の倍になるそうです。主に介護老人施設でおこる窒息事故で、どのような人が事故に至るかというと、臼歯部咬合がない、認知機能障害がある、そしてもう一つの条件として食事が自立していることがあるそうです。食事の自立で大切なことは、自分でどのくらい食べたのか?ではなく、自分でどうたべたのか?だそうです! 歯がなくて咀嚼ができないとそのまま飲み込みますので窒息につながるそうです。

咀嚼力=咬合支持×口の力強さ・巧みな動き×認知機能

私たち薬剤師も、特に在宅訪問の現場で患者さんの体調チェックの一環として口内環境チェックや食事の取り方の確認など、できることはありそうです。とてもすばらしい講演を拝聴できてよかったです。

講演会の後に懇親会がありましたが、我が薬剤師会の会長と、医師会会長と歯科医師会会長が次回11月の三師会合同研究会講演会について何やら相談していたようです(⌒-⌒; )

がんばりましょう!


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