院外処方せん応需薬局 平成29年6月勉強会

6月15日(木曜日)日立薬剤師会の勉強会が開催されました。

今回は日立総合病院の副院長、消化器内科の鴨志田敏郎先生にお越しいただき、「便秘に関するお話〜過敏性腸症候群と便秘〜」と題してお話いただきました。

便秘症について、患者の増加、適正な診断の必要性、薬剤の適切な使用について、わかりやすく説明していただきました。

まず、便秘あるあるとして、

患者さんが便秘を簡単に考える傾向があり、主治医がいたとしても、ついでに便秘薬も処方してちょうだい、などと、なんとなく付け足しで処方されてしまうことはよくあるのではないでしょうか、ということです。

便秘症は実は、後期高齢の人では、男性の方が症状がある方が多いそうです、便秘薬を主治医に処方してもらうケースが多くなるのですが、消化器内科の医師ではないことが多く、適正な診断と処方が行われていない状況があるそうです。

診断と患者認識の相違について、

器質的疾患(大腸ガン、腸捻転、潰瘍性大腸炎など)においては、診断と患者の症状の認識に相違はありませんが、機能的疾患(検査をしても腸に異常がみられない)においては、診断と患者認識(残便感、腹痛、腹部膨満感、食欲低下など)に相違があらわれるそうです。FD(機能性ディスペプシア)も機能的疾患のひとつだそうです。

便秘症には明確な定義はないそうです。

便秘≠便秘症ですが、患者さんの症状の聴取が治療の第一歩になります。また、便秘による患者さんの状態にも留意しなくてはならなくて、排便量の減少による、腹部膨満感、腹痛、お腹が張って苦しいなどの症状はよくあるはずです。便形状の変化、硬い便だけではなく、腸内の硬い便の隙間から液状の便が出ていても便秘には変わりはないこと。そして、便秘症の方が排便時にいきむことで血圧が高くなったり、あるいは肛門部に痛みがおきたりなど、便秘による排便のトラブルも、高齢者や循環器に病気を持つ方にとっては大きな問題になります。

ここで閑話休題で排便時の姿勢について鴨志田先生からお話がありました。

直腸肛門角があり、排便は寝たままではスムースにいかず、洋式便器などで足と胴が90度の角度(横から見て)で座っても、背もたれに寄りかかるような姿勢では角度が悪く、便器に座って前傾になり、しかも足の下に台をおいて、足と胴の角度が35度くらいが丁度排便に適しているそうです。それはつまり、和式便器で排便する姿勢に重なるそうです。

まぁ、なんとなく和式便所では気持ち良くでるなぁ、とは思っていましたが(⌒-⌒; )

最近は和式便所が少なくなりましたが、旅行や遠征で高速道路を長時間利用するときなど、パーキングエリアなどのトイレで和式を探したりしてますねぇ、なんとなくお尻を付けなくて良いのも清々とするというか・・・・

ともあれ、現代では洋式便器が主流ですし、高齢者などが安楽に利用できなくてはなりません。

なので、オーギュスト・ロダン作「考えるひと」だそうです。鴨志田先生には、かのブロンズ像は思索をしている姿には見えないそうです。トイレでまねましょう(≧∇≦)

 

便秘の治療目標ですが、便の回数を正常化するとともに、お腹がはったり、痛んだり、食欲がなくなるなどの症状を治すことが大切とのことです。

ブリストル便形状スケールの紹介がありました。

このスケールにおける目標は2〜4の状態だそうですが、鴨志田先生によるとこれは英国で作られた尺度なので、日本人においては3か4が良いとのことでした。

慢性便秘の診断と治療については、器質的疾患については原疾患の治療が便秘の治療にもつながります。

そして、便秘の原因は、器質的なもの、神経性のもの、代謝障害によるものなど様々にありますが、機能的疾患における、二次性便秘の原因についてのお話がありました。

いわゆる、薬剤性の便秘です。向精神薬や抗うつ剤、カルシウム拮抗剤や抗がん剤など、様々な薬剤の服用が便秘の原因になることがあります。そのなかでもオピオイド製剤による便秘については、新薬が発売されたというトピックのお話もありました。

いわゆるオピオイドと言われる薬剤は、中枢性オピオイド受容体に作用して鎮痛効果を発揮しますが、末梢性のオピオイド受容体を介して作用すると消化管運動、消化管神経運動が抑制されて便秘になります。新薬は、この末梢の方のオピオイド受容体でオピオイド製剤に拮抗することで、薬剤による二次性便秘を治療する薬剤だそうです。

診断のうえで、便秘の警告症状についてもお話がありました。最近発症した便通の異常、体重減少、直腸の出血がある、さらに50歳以上などの条件では、大腸ガンの可能性を考えて検査してから便秘の治療をする必要があるとのことです。

また、便秘型のIBS(過敏性腸症候群)と機能性便秘のオーバラップというお話があり、厳密な区別は難しいそうです。ただ、便秘IBSでは、ブリストル形状スケールで良好な便形状になっていても、腹痛などの症状があるのが特徴だそうです。

お話は、便秘の治療、対症療法に移っていきます。

WBO(World Gastroenterology Organisation)世界消化器学会と訳してよいのですかね(⌒-⌒; )

のガイドラインを示していただきました。

まず第一段階としては、生活習慣の改善、食事指導、食物繊維の摂取、水分の摂取指導、またサプリメントの利用などです。

次の段階では、浸透圧性下剤(ラクツロースなど)やルビプロストン、リナクロチドを処方

それでもだめなら、刺激性下剤、浣腸、消化管賦活剤の処方になるそうです。

このガイドラインで特徴的なのは、日本でよく使われる酸化マグネシウムが全く登場しないことです。これについて鴨志田先生は、日本は軟水で普段マグネシウムの摂取量は少ないが、欧米の水は硬水だから普段からマグネシウムの摂取は一定量あり、さらに服用することがないのではないか、また心臓に病気がある方などは、マグネシウムの吸収がリスクになることがあるので用いられないのではないかと考察しておられました。

また消化管賦活剤の処方においては、モサプリドなどより、FD治療剤のアコファイドの方が効果が得られるとのお話がありました。

日本では便秘に適応がある漢方製剤が何種類もあるので、日本人の先生では刺激性下剤の使用前の段階で漢方製剤を使用するガイドラインを作っている方もいるお話しもありました。

その他の便秘の治療では、ごく稀に外科的治療があったり、一部の便秘の症状には、バイオフィードバックといわれるトレーニングや骨盤底筋のトレーニングなどをおこなう病院もあることをご紹介いただきました。

 

便秘に対する薬剤の服用について、ここから本題というか、大切なお話ですが、便秘の患者さんの薬の濫用についてお話がありました。

便秘関連商品はセルフメディケア商品市場で300億円をこえるそうで(O_O) 兎角、便秘の方は医師に相談するよりも、市販薬を購入して連用することが多いとのことです。

便秘症状を軽く考えることが受診にいたらない理由の一つではあるようです。

問題なのは、市販の刺激性下剤を連用した結果です。

刺激性下剤を連用することにより、メラノーシスコリという腸の器質的変化が起きるそうです!

内視鏡検査で大腸内が真っ黒になったり、ヒョウ柄のような模様を呈する患者さんがいるそうですが、刺激性下剤の1年以上の連用が原因とのことです。センナやピコスルファート、市販薬以外でも、よく使われる漢方製剤のなかで、ダイオウを含むもの、まあアロエ製剤は同じく連用でメラノーシスを起こすことがあるそうです。

メラノーシスは腸内の色が変化するだけではなく、器質的変化として、過長結腸、結腸拡張、ハウストラ消失(腸のヒダヒダがなくなる)となっていくそうです。組織にマクロファージが集積して神経細胞が減少していくのが原因と考えられるそうです。

 

つまり、そうなんです! 便秘は適切な診断と正しい薬剤の選択による治療が必要なんです。便秘といったって、どこが痛くて、どんな便で、何回でるのか、いつからなのか、みんな違うのです。

 

先生は、便秘患者のQOLの低下についてお話されました。身体的精神的QOLが低下すると、日常活動性障害率と労働生産性低下率が高くなってしまうのだそうです。便秘の患者さんはC型肝炎の患者さんより高いのだそうです。

例えば、C型肝炎の治療は大きく進歩しましたが、薬剤の使用による治療が終了するまでレクサス1台分かかります。でも肝炎の治療は労働生産性低下率をうんと下げる効果が高いので、高額でも許されるのではないでしょうか。つまり利益が大きい。

だから、便秘の治療も、たかが便秘と思わないで、安価な薬はたくさんありますが、適正な診断のもと適正な選択で多少高額な薬を服用しても、QOLをあげることが大切ではないかというお話です。

また、メーカー様の説明にもありましたが、リナクロチドの作用機序における安全性についても確認していただきましたし、今後は便秘治療の主流になるのではないかと思われます。

実際、刺激性下剤は習慣性があり、習慣的使用により抵抗性を獲得して服用量が増えるという悪循環が起きて、慢性便秘を重症化させ、結果メラノーシスにつながります。また便秘症による結腸がん発症リスクが高くなりますが、刺激性下剤服用者に多いのかもしれないとのことです。

 

便秘はまず、早いうちに適正な診断をうけて、早めに治療を開始して、慢性化させないことが大切です。

刺激性下剤の濫用になる前に、現在は新しい薬も登場して治療の選択肢も増えています。センナ、センノシド、酸化マグネシウムに比べれば、確かにリナクロチド、ルビプロストンアコチアミドなどは薬価が高いのかもしれません。でも、代え難い価値がそれにあることがよくわかりました。

 

まずは、今までを振り返って、戒めも必要かと思いました。下剤の連用を見過ごしているケースはあると思います。

今後、この知識をどう生かしていくか、それが問題です( ̄▽ ̄)

鴨志田先生、このたびは大切なお話をありがとうございましたm(_ _)m

 

 

東京バ○ナ

ブリストル便形状スケールで3から4。日本人の理想の形状だそうです( ´ ▽ ` )ノ

 

 

 

 

 


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