Q. まず、おくすり手帳とは何ですか?
A.お薬手帳とは、皆様が飲んでいる薬について記録する手帳のことを言います。一般的には、薬局で作ってもらうことが多いと思いますが、病院などでも作ってくれるところが有ります。デザインなどいろいろありますが、中身はどれも同じだと思います。
Q.最近、薬局で「お薬手帳をもっていますか?」と聞かれることが多いのですが、持っていたほうがいいのですか?
A.はい、間違いなく持っていたほうが良いとです。特に2012年の4月から厚生労働省、つまり国の考え方として、薬を飲んでいる人はお薬手帳を持った方が良いと言うことになっています。
Q.それは何か理由があったのですか?
A.はい、10数年前からお薬手帳は薬局などでお渡ししていたのですが、2011年の東日本大震災でお薬手帳の有用性が再認識され、薬を飲んでいる人はお薬手帳を持った方が良いということになりました。
震災で多くの方が避難所生活を強いられたり、また故郷を離れて親戚などに身を寄せた方がいらっしゃいます。そのような方々の中に持病をお持ちで、普段から薬を飲んでいる方が多勢いらっしゃったわけです。避難所生活などが長期になってくると必然的に薬がなくなってきます。当然薬を処方してもらわなければなりません。
そこで、今まで飲んでいた薬の情報、例えば薬の名前、規格、飲みかたなどをきちんと覚えていられた方はいいのですが、薬の種類が多いとほとんどの方はそれらの情報をすべて覚えてはいなかったというのが現実でした。 特に高齢者の方は飲んでいた薬の名前が分からない場合が多く、薬の形状などを聞き取りして特定する必要がありました。
実際、血圧の薬だけでも何百種類もあります。そこで「血圧の薬と心臓の薬とコレステロールの薬を飲んでいました。」と言われても、医療関係者も困ってしまったわけです。
しかし、お薬手帳を持っていた方は、今まで飲んでいた薬の情報をきちんと医療関係者に伝えることができたましたので、「全く同じ」とまではいかないまでも、ほぼ同じ内容の薬を処方してもらえたわけです。そのような経験からお薬手帳は薬を飲んでいる人は持つようにとなったわけです。
Q.お薬手帳を持っていた方は本当に助かったのですね。
A.はい、現実に私どもの薬局でも、福島の原発事故で日立の親戚を頼って来ている方がいましたが、お薬手帳を持っていた方はスムーズに今までと同じ薬を処方してもらい、調剤することができました。私どもも改めてお薬手帳の大事さを実感させられました。
Q.では、実際にお薬手帳には何が記入されているのですか?
A.お薬手帳には調剤された薬の詳しい情報が記入されます。 どういうものかと言いますと、調剤日、調剤した薬局名、処方箋を発行した医療機関名、薬の名前、薬の規格、飲み方などが記入されています。言ってみれば処方箋の重要な部分が記入されていると言ってもいいと思います。 患者様の中にはいつも同じ薬だからお薬手帳を薬局に持ってこない方もいらっしゃいます。
Q.同じ内容でもシールは貼り付けた方がいいのですか?
A.はい、お薬手帳はその患者様が飲んでいる薬の歴史みたいなものです。どのような薬をどれだけの期間飲んでいるかを記録するものです。お薬手帳は医師、歯科医、薬剤師に見せることで効力が発揮されます。新しい情報、つまり1週間前に28日分薬が出ていれば今飲んでいる薬を確信できますが、1年前の情報だと「本当かな?」と考えてしまうと思います。もう一度本当に今飲んでいる薬がそれかどうか確認しなければなりません。もし、代理の方が来ていて改めて確認できる状態ではないときは困ることもあります。新しい情報が非常に大切になります。是非、毎回新しい情報にしておいて欲しいと思います。
Q.お薬手帳はいつも新しい情報を記入しておくと良いんですね。 では、お薬手帳のメリットについて教えて下さい。
A.まず、アレルギーや、副作用を回避出来る事だと思います。
皆様の中には、特定の薬に対してアレルギーを持っている方、過去に特定の薬を飲んで副作用がでた経験がある方がいらっしゃるかもしれません。そう言った場合、その薬の名前を記録して残しているでしょうか?
また、卵や牛乳など、特定の食べ物にアレルギーをお持ちの方もいらっしゃると思います。お薬の中には、そういった食べ物由来の成分が含まれるものもあります。うっかり伝え忘れてしまい、薬を飲んでしまうと大変な事になってしまいます。
お薬手帳に、体質に合わない薬や食べ物の名前を記録しておき、それを見せれば、そういった薬が処方されることは無くなるはずです。そのようなアレルギーや副作用の経験をお持ちの方には是非とも、お薬手帳を有効に使って頂きたいと思います。
お薬手帳は薬局などで記入してもらうだけではなく、ご自身でそのような情報を記入しておくと本当の意味で、有効利用ができるのではないかと思います。
次に、今、この日本にだけでも、1万を軽く超える種類のお薬が存在していることを皆様はご存じですか?
そして、皆様も聞いたことがあると思います。「ジェネリック医薬品」という言葉をご存じですか?
従来からも、「名前は異なるけど同じ中身の薬」という物は存在していましたが、ジェネリック医薬品の登場で、その数は急激に増えています。
極端な話、同じ薬なのに、ジェネリック医薬品を作っている会社の数だけ、違う名札をつけた薬が増え続けているというわけです。異なる医療機関で同じ働きの薬が出てしまう事もあるかもしれません。
お薬手帳があれば、正確な薬の名前が分かるので、医療機関において、このような重複が無いか、しっかりとチェックすることが出来るようになります。
例えば、普段から血圧の薬を含め、腰の痛み止めを飲んでいたとします。歯科医院に行って抜歯をしたので薬が出るような時でもお薬手帳があれば歯科医に、他の病院などで今飲んでいる薬の情報をきちんと伝えられるので、痛み止めが出ないこともあると言えます。
次のメリットとしては、飲み合わせのチェックが出来る事だと思います。お薬の中には、他の薬や食品に、相性が悪い相手を持っているものがあります。
同じ病院、同じ薬局でもらった薬同士なら、それぞれの医療機関でチェックが可能ですが、もらった先が異なる場合は、皆様が申告されないとチェックが出来ない可能性があります。お薬手帳の記録があれば、そういったチェックにも役に立ちます。例えば、普段から便秘気味なので病院から便秘薬をもらって飲んでいたとします。ある日風邪をひいて他の病院から抗菌剤を含む風邪薬を出してもらった。現実にはこのようなことがあると思います。この便秘薬は「酸化マグネシウム」という薬でした。お薬手帳できちんと確認できれば便秘薬と抗菌剤との併用で抗菌剤の効果が下がってしまうことを未然に防ぐことができます。この場合この便秘薬と抗菌剤は2時間以上空けて飲めば本来の抗菌剤の効果が出るので、患者様には「2時間以上空けて飲むように」とお話できるわけです。 次のメリットとしては、先程、東日本大震災のお話と少し重複しますが、薬の手持ちが無くなったのに、いつもかかっている病院が定休日だった、帰省先や旅先に薬を持っていくのを忘れた、引越しで病院を移らざるを得なかった、など理由は色々あると思いますが、今飲んでいる薬を、他の病院で貰わなくてはいけなくなる場合があると思います。そんな時、お薬手帳を見せれば、同じ薬か、近い薬を処方してもらえるということになります。
Q.お薬手帳には、色々なメリットがあるんですね。 その他実際お仕事されていて気になることはありませんか?
A.はい、最近は減っていますが、お薬手帳を医療機関ごと、薬局ごとに分けて何冊も持っている方がいらっしゃいます。そのように分けてしまうと他の病院の薬が確認できなくなってしまいます。お薬手帳は「医療情報の共有化」という医療関係者の架け橋のほか、自分の健康情報を自分で記録し医療者に伝えるという「患者と医療者の架け橋」にもなるものです。そのためにもお薬手帳は医療機関ごと、薬局ごとに分けるのではなく1冊にまとめて使って欲しいと思います。また、病院、薬局に行くときにお薬手帳を持って来られない方がいらっしゃいます。 お薬手帳を自分で管理することも大事ですが、お薬手帳を医療関係者に見せることも大事ではないかと思います。ご自身では問題ないことだと思っていても、医療関係者が見ることで思わぬ発見と言いますか、問題が見つかる場合があるのではないかと思います。是非、毎回お薬手帳を持ってきて見せて欲しいと思います。お薬手帳は常にバックなどに入れておくと良いのではないかと思います。 そうすることで本来のお薬手帳のメリットが発揮されると思います。また、そうする事が自分自身を守ることに繋がって行くのだと思います。
ここで「東日本大震災時におけるお薬手帳の活用事例」が日本薬剤師会のホームページにありましたので、その中から極一部ですが紹介したいと思います。
まず最初に、高知県から宮城県石巻市に派遣された医師からの報告です。
「震災後急性期には、津波で薬が流された高血圧、糖尿病などの慢性疾患患者が診療所に殺到した。被災した場所から手帳をお持ちいただくと、すぐに処方ができ、多くの患者に対応できた。お薬手帳がない場合は、処方の度に投薬内容が変わってしまうことがあった。」
次に、大阪から岩手県大槌町に行かれた薬剤師から報告された事例です。
「私が支援に入ったのは1ヶ月後で、すでにかなりお薬手帳が配布されていました。ちょうど2回目、3回目の受診の頃でしたが、診療所のカルテの整理が間に合っていない時期で、ノートへの時系列の記録だったので、処方歴を確認するのに大変時間がかかりました。その点、お薬手帳は個人で持っているので把握がしやすかった。混乱時は特に役に立つと思いました。」
次に、福島県の薬剤師から報告された事例です。
「原発事故で避難された方が当薬局にも多く来局された。ある方は、避難所ごとに重複して受診され、先発品と後発品で二重に処方されていた。受診時に手帳が有効に活用され、薬剤師が関与できれば防げたと思う。」
次に、新潟県から宮城県石巻市に派遣された薬剤師からの報告された事例です。
「避難者は、一箇所の避難所にずっといるのではなく、次々と避難所を移っていく方も多かった。そのような方への投薬の際は、処方の変化を把握することができ、非常に有用だった。お薬手帳には血圧なども変化も記録され、単純に薬剤の記録帳としてではなく、総合的な医療情報共有ツールとして活用されていた。」
最後になりますが、茨城県の薬剤師から報告された事例です。
「遠方の医療機関に通っていた近隣の患者さんから、「交通手段がないため医療機関にいけない、薬がなくなってしまった。薬が欲しい」と相談があった。お薬手帳をお持ちだったので、近隣の医療機関へ事情説明し紹介、処方、調剤がスムーズに出来た。」 その他たくさんの事例が報告されています。
Q.本当にお薬手帳が役にたったのですね。
A.はい、上の報告からもわかるように様々な場面でお薬手帳が情報共有ツールとして有効に活用されました。
また、「手帳」というアナログな媒体が、むしろ電力供給に左右されることなく、即時に閲覧、記入が可能であるという利点が発揮されたのだと思います。
是非、皆様もお薬手帳を有効利用し、自分自身を守っていただきたいと思います。
東金沢薬局
鈴木勝俊