Q セルフメディケーションとはなんですか?
A 厚生労働省も推奨していますし、新聞やテレビなどでもしばしばとりあげられるので、言葉として聞いたことがある方が多いと思います。しかし正しく意味を把握している方はまだ少ないようです。
セルフメディケーションは外来カタカナ語ですが適当な日本語訳や概念がないのでそのまま使われているようです。セルフは自分とか、自己という意味です。メディケーションとは病気を治すという医療を示す言葉です。両方つなげると「自分で病気を治す」ということになります。
世界保健機関WHOでは、セルフメディケーションとは「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当すること」と定義されているそうです。
たとえば風邪をひいたときに風邪薬を服用する。おなかを壊して下痢をしたときに下痢止めをのむ。胃のもたれ消化不良などでおなかが張るとき胃薬を服用する。疲れた時にビタミン剤を服用する。ちょっとした切り傷を負ったときにガーゼつき絆創膏で手当てをする、または傷薬を塗布する。などをセルフメディケーションということができます。病気になった時など自分で薬を服用して養生して治すというのはセルフメディケーションの一部ではあり大切なことですが、現代社会においては本当の概念を示すものではないようです。
Q ではセルフメディケーションの概念とはなんですか?
A 近代の医療では、病原微生物による感染症や外科的療法が主である急性期医療はすばらしい成果をあげてきました。まず、セルフメディケーションは病院にかかることを否定するものではありません。現在の日本を含める先進国では生活環境や衛生状態がよくなり、軽度な病気や怪我があまり大きな問題にはならなくなりました。
メディケーション「病気を治す」ことは急性期医療のいわゆる感染症や怪我に限りません。慢性疾患の予防・治療や健康の維持ということが含まれます。
食事内容の変化や近代社会のストレスが関与するといわれている生活習慣病が増えています。高齢化社会が進んでいますが当然それに伴って誰しも病気になる可能性が高くなりました。
そこで自分自身を守り、また社会の損失を防ぐために自らの健康に関心をもち病気にならないような生活を心がけることが求められます。
「自分で自身の健康を管理する」ということがセルフメディケーションの概念といえると思います。
また、糖尿病や高血圧症などの慢性疾患になってしまったとしても、やはり自らの病気に関心をもち積極的に治療に努め、病態を悪化させないこともまたセルフメディケーションといえます。
しかし、セルフメディケーションは医師に頼らず自分勝手な健康法をおこなうことではありません。また、急性期医療や救急体制の整備、高度先進医療を否定するものでもないのです。自らが自分の健康に関心を持ち健康を管理することを示す言葉なのです。
Q 健康を管理するとはどんなことでしょうか?
A まず自分の健康に関心を持つことです。身体はかけがえのない「自分自身のもの」です。他人や医療関係者任せにしないで自分を大事にすることです。
素人ではどうしてよいかわからないと思う方がいるかもしれません。それならば、わからないことは聞いてみましょう。医師や薬剤師、その他の医療関連の専門職の従事者はセルフメディケーションを支援する役割を担っています。
その中でも身近な薬局やドラッグストア等では薬剤師が常駐していますので、気軽に相談できます。また薬局やドラッグストアには薬品はもちろんですが、セルフメディケーションに役に立つ商品がとり揃っています。
自身の健康に関心をもつと、健康状態を常にチェックしてみようと考えるようになります。
これをセルフチェックと言いますが、最近はチェックする道具、たとえば体重計や血圧計も機能的に優秀なものが手に入ります。
体温計で熱を測ることもセルフチェックです。熱があって、風邪の兆候と判断したら、早めに安静にして症状を緩和する市販の薬を服用します。このように市販の薬を使って症状を治すこともセルフメディケーションということもできるかもしれません。
でももう少し範囲を広げて、風邪にかからないように、生活改善を実践することも含めて考えることがセルフメディケーションです。
Q 病気や怪我をしたらすぐに病院に行けばよいのでは?そのために健康保険制度があるのでは?
A 確かに日本は世界に誇ってよい国民皆保険制度を実施しています。
医療費は税金と保険料で構成されていますが、医療費の高騰により保険料が上昇しています。保険料を支払った分を取り戻したい感覚も理解できるのですが、無駄な使い道、不適切で非効率な経費が更に医療費を上げてしまうという悪循環を断たないと、制度自体の存続が危ぶまれます。事実国や自治体の負担は限界になっています。国や自治体の負担といっても、それを支払うのは結局国民市民生活者ひとりひとりです。
医療費全体を効率的に使うためにも、自分の健康は自分が責任をもつ、そしてそれを支援する仕組みをつくることが自分自身にとって結局得になります。
Q セルフメディケーションをおこなうと得をするのですか?
A 自分に利益がないことはやりたくないと思われる方もいるかもしれませんが、実はセルフメディケーションはとてもお得な活動なのです。
多くの方は生まれてから健康に育ちます。しかし、この生命を脅かす様々な危険が待ち受けているわけです。急性疾患や交通事故など予防では回避できない疾患や怪我は医療機関が担当することは当然です。でも静かに忍び寄る危険に対しては万全ではありません。これは治療よりも予防、進行阻止に重点を置くべきものです。
病気の予防進行阻止についてですが、自覚症状はなくても検査では異常がある状態や、反対に検査では異常が示されないのに自覚症状があるといった「病気に向かっている要注意状態」を「未病」と呼びます。
セルフメディケーションすることとは、このような未病を早く発見し、早めの対応をすることです。
糖尿病、高血圧、高脂血症など生活習慣病と呼ばれる疾患は、いずれも「未病」を経過して「病気」になります。セルフメディケーションによって、「未病」状態である時に、その有力原因である食生活や生活リズムの改善をして、未病のまま悪化させない、あるいは健康状態に戻すことができるのです。
不幸にして「病気」になってしまった方もセルフメディケーションの実践を取り入れることによって病気の進行を止め、社会生活の継続が可能になります。
このことは働き盛りの中年層の方はもとより、若い未成年の方にも高齢者の方にも、そして現在治療中の大半の方にも適用することができるのです。
セルフメディケーションの実践により、未病を早く発見して対処することで、実践者本人はまず「健康を維持できる」という贈り物が得られます。また、未病の段階で対処することにより、病気になってしまった場合にかかるはずの医療費を抑制もでき、仕事や家庭にかける負担もおこらなくなります。社会的損失を防止することになりますのでみんなが得をします。セルフメディケーションは実践することで、より良い生活を送ることができて、尚且つ社会にも役立つのです。
Q セルフメディケーションの具体的な実践について、どうすればよいでしょうか?
A 風邪をひいたとき、頭痛がするとき、腹痛のとき、またなんとなく症状が心配でこれから予防したいとき、是非薬剤師にご相談ください。気軽に薬局を訪ねていただければご相談にのります。急性疾患や大怪我は当然病院を受診していただく必要がありますが、体調がちょっとすぐれない時の相談をするにはとても便利だと思います。
また、外傷の治療のためには各種絆創膏や軟膏、消毒薬、脱脂綿、包帯などは使用法の説明を薬局等で受けたうえで、ご家庭にて常備していただけるとよいかと思います。
それから、「未病」の状態の方や健康に不安を感じる方の相談も受けることができます。そのために、セルフチェックとセルフケアについてお話ししたいと思います。
Q セルフチェックとセルフケアというのはセルフメディケーションと違うものですか?
A セルフチェックとセルフケアはセルフメディケーションを行ううえで必要になってくる活動です。まず、セルフチェックについてお話します。
セルフメディケーションに先立って、自分の身体の状態を正しく知ることがとても大切です。身体状態を知るというと「検査」と思いがちですが、医療機関で機械装置や検査薬などを使う「検査」の前に、自分自身の感覚や生活のリズムを大切にしましょう。朝起きた時の鏡の中の顔色を観察すること、肌の色や変形など気になることはないかなどや、便や尿の色や回数も健康の指標になるかもしれません。いつもとちがうな、おかしいなと異常に気付くことで早期の手当てができるのです。
自分の感覚だけでは心もとないと思われるかもしれません。そんな時はセルフチェックに役立つ家庭用の検査器具もあります。
体重計や体脂肪計は肥満度をチェックできます。体温計は家庭に常備したいところです。
血圧計も市販されているもので十分セルフチェックとして使用できるものがあります。
血圧は薬局の店頭で計ることができるところもありますが、家庭において朝起床後に定時測定して記録すると、日内変動を含めて正確にちかいデータがとれます。 さらに自己血糖測定器や尿の試験紙などでのセルフチェックも可能です。
また、今ではセルフメディケーション支援薬局の一部で、糖尿病や脂質異常の自己検査を行うこともできます。
測定値がどういう意味があるのか、詳しくは医師や薬剤師から説明を受けてください。
定期的におこなわれる健康診断のデータも当然活用してください。
Q ではセルフケアとは?
A セルフチェックができて、健康状態を是正する必要がある場合、医療機関を受診するという選択肢がありますが、未病状態や健康状態がまあまあの場合、悪化予防や健康維持のための選択肢があいまいになってしまいます。病気でない状態で医薬品を使用して治療というのは抵抗を感じると思います。 そこで自分の健康状態に応じて自らがセルフケアをおこなうことが理想的ではないでしょうか。
まず考えられるセルフケアは生活改善です。食事の栄養バランス、睡眠、休養、運動などを見直し、生活リズムを修正すること。そのためにサプリメントや健康食品が役に立つこともあるかもしれません。
健康のための積極的な活動をセルフケアということができると思います。 このようなセルフケアも含めてセルフメディケーションの実践といえるのではないでしょうか。
「自分の健康を自分が主体性をもって守って行く」ということです。
Q セルフメディケーションが自分にも社会にも利益になることはわかりました。そんなに難しくないようにも思えます。この考え方が普及しない理由というか問題点はありますか?
A 個人が自覚することで健康を維持してより良い生活を送ることができるのであれば、それは個人のメリットです。尚且つセルフメディケーションが社会にも役に立つという意識が醸成されることが、本来のセルフメディケーションの目的にあたるといえるのだろうと思います。
セルフメディケーションの考え方は自然なもので、特別な学習や決意をする必要はないのだろうと思います。是非多くの方に知っていただきたいです。 問題はどうやって実践していくかというところにあるのかもしれません。
実は健康というのは皆さん関心が高く、健康法や健康食品に興味を持つ方も多いと感じます。しかしセルフメディケーションとは薬局で薬や健康食品を購入させるためのシステムとはちょっと違いますので、これも勘違いをされないようにお願いいたします。
必要なのは「信頼できる正確な情報」なのだと思います。身体に良いとされる健康食品やサプリメントの、情報や広告などをよく目にすると思いますし、しばしば勧められる機会もあるのかと思います。それが本当に自分自身に必要なものか、適正なものなのか知りたいと思うのではないでしょうか。セルフチェックやセルフケアをするためのアドバイスを直接受けたいと考える方もいるのではないでしょうか。
そのためには信頼できる、医師や薬剤師との関係の構築、さらには医療介護関係者との連携。ここに個人が簡単な手続きで入って相談できるシステムがあることが必要なのだろうと思います。
ともあれ薬局が便利です、私たち薬剤師も皆様の健康維持のお手伝いができるように日々精進しております、是非、お気軽に身近な薬局を訪ねてご相談ください。